ふうあーゆー④

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「おぉ、ほんとだ、猫だ。」

 

俺たちが着いたのは、どうやらあまり広くない感じの造りのマンションの一室だった。

とにかく、今の俺は身体が小さすぎて全貌が掴めないのだ。

でもどうやらここはワンルームとか、そういう間取りだろう、と思った。ケイタ、と呼ばれた男は俺たちより年上のようだ。

ずいぶん捺美ちゃんと親し気だな。従兄か何かか?

 

「なんか、気になっちゃって。啓太くん、猫飼ってたって言ってたから。それに、うち飼えないし。」

 捺美ちゃんは部屋の床に無造作に置かれた大きめのクッションに座りながら膝の上で俺の背中を撫でている。

「そう、前の花子もいいやつだったんだよなぁ。それにしても、こいつの首輪はなんか変わってるな。」

ケイタは、俺の首元の鈴に手を触れた。あれ?この音、なんか聞いたことがあるぞ?

「なんか、変わった音色だよね。風鈴みたい。」
「そうだな、夏でもないのに風鈴を聴いているみたいだ。不思議だよなぁ、金属に見えるのに。」

「じゃ、名前はふうちゃんにしよっか!」

「風鈴のふう?いいな。よし、お前は今からふうだぞ。と言っても、もしかしたら誰かのペットかもしれないし、拾ったところの住所とこいつの写真撮ってSNSに載せるとかしたほうがいいかもしれないな。あ、あと獣医にも連れてかなきゃ。病気とか怪我してないか診てもらわないと。」
「そうだね!さすが圭太くん!」

 

 それは確かにいい考えだ、このケイタって男は信用できそうだ、と思った瞬間、信じられない出来事が俺の頭上で起こった!

 

「う。。。ん」

 

 なんと、なんとなんとなんと捺美ちゃんがケイタとキスしている!こいつは、俺のライバルだったのか!というか、俺、どうしようもなく負けちゃってるじゃないか!!どうしたらいいんだ!!

 思わず膝の上で頭を抱え込もうとバタバタしてしまい、二人はそれ以上の行為を続けることをやめた。

「なんか、人間味あるなぁ、こいつは。」

 

俺は、あっさりとケイタに抱きかかえられる。

あぁ~、嫌だ、嫌だよ、離せよちくしょう!暴れても一向に自由にならない。

捺美ちゃんがふふっとあの可愛らしい笑顔で笑いかけた。

 

「ふーちゃん、ケイタくんはペットにも優しいし、ここでならまた会えるから、ワガママしないでいい子にしててね。」

 捺美ちゃんに言われちゃあしょうがない。。。俺はあきらめるしかなかった。

 

「じゃあ、私は塾に行くから。獣医さんとか、お金かかるよね?大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。そのくらいはバイトで稼いでるから。万一かなりかかりそうだったら友達に相談するよ。獣医学部に行ってる人、知り合いにいるからさ。」
「さっすが名門!私も目指してがんばろーっと!」
「捺美の成績なら大丈夫だよ。」
「うん、あとでまたラインするね。」

 捺美ちゃんは出ていき、俺はケイタと二人きりとなった。

「さて、と。まずお前の写真撮らなきゃなー。この鈴と首輪もよく写るようにしなくっちゃな。黒猫なのはみりゃわかるだろ。」

 

ケイタはクッションに俺を座らせてスマホで何枚も撮影した。

さっきまでの捺美ちゃんのいい匂いがぷんぷん漂ってくる。

俺は感覚も猫になってしまったらしい。捺美ちゃんのいい匂いを感じられることは嬉しいんだが、でも、嬉しくない。
 

 

そこからケイタは知り合いに電話し始めた。

「はい。。。はい。うん、見た目はそんな小さくないのと、元気そうなんですよね。じゃあ、予防接種と、去勢手術くらいですかね?。。。あ、そっかぁ。飼い主がいる場合がありますね。。。わかりました。ありがとうございます。」
 

きょ、去勢手術ぅ!!?そんなことされて俺、人間に戻ったとき大丈夫なのか!!??

 

俺のドギマギが伝わったのか、電話を切ったケイタは人懐っこい笑顔で俺に話しかけた。

「なーんだ、お前も男だから気にしてんのかぁ?大丈夫だよ。とりあえず飼い主さんを見つけるまでは手術はしないさ。首輪してる猫は飼われている可能性が高いらしいからな。3か月はそのまんまだ。」

さ、三ヶ月。。。三ヶ月経ってもこのままだったら、俺、去勢されちゃうってこと!!?まだ、まだなんにもしてないのにぃぃ!!!

「だーいじょぶだって!それより、予防接種は行くぞ。このへんの大きな動物病院調べなきゃな。そこでお前の元の飼い主さんが見つかるかもしれないし。あ、なんか食いたいよな?とりあえず。。。牛乳しかないな。それでいっか?あとで買い物行ってくるから。」

 

 

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