2019年10月22日18時より、「オールパガニーニ」なコンサートを開きます。題して、『パガニーニ・ミーティングス vol.3』!
では、前回の内容を軽くご紹介しましょう。出演は、ヴァイオリン田中幾子とクラシックギター富川勝智(以下とみー)の2人です。
2019年10月22日18時より、「オールパガニーニ」なコンサートを開きます。題して、『パガニーニ・ミーティングス vol.3』!
では、前回の内容を軽くご紹介しましょう。出演は、ヴァイオリン田中幾子とクラシックギター富川勝智(以下とみー)の2人です。
今日は『青の時代 vol.4』本番そのものでした。
数日前から、演奏するときの感覚が大きく変わってきたからか、
今日はまた一段と緊張が激しかった。。。
でも、お客様にはそう見えなかったらしい。ふぅん。不思議なものだね、開演前にステージで確認していた終わりごろには足が震えていたのに。
でも、何度も来て下さっている方が
「研ぎ澄まされた感覚で隅々まで見渡せている感じ。音もすごく良かった。」
と、おっしゃって下さったので、
このところの変化の方向性は、悪くなかったのかもしれない。
思えば、2週間前の『パガニーニ・ミーティングス』のときと全く違っていたものな。そう話すと、
「目が覚めたのかもしれませんね。」
と、言われた。そうか、そうだったのか。
帰宅してふっと一息ついたところで、これからやっていく新しい企画のための準備を始めて、やっとゆっくりしているところです。
うん。この先も行こう。
そんな、今日でした。
捺美ちゃんは、週に2、3回訪れた。
そのほとんどは、塾に行く前の数十分と、土曜日の午後だ。
二人の様子を見ていると、捺美ちゃんはがんばって勉強していることがわかるし、ケイタも大学の勉強や就活も真剣に向かっていることがわかっていった。
捺美ちゃんがバイトをやめたのも、勉強のためだ。ダイエットは、それはケイタのため、なんだけどさ。。。
ただでも、一緒にいるときの会話のほとんどは捺美ちゃんの勉強のことだった。
ケイタは、かなり面倒見がいい奴のようだった。
それに、とても親切なんだ。
捺美ちゃんが何かに興味があるようなことを言うと、次に会うときまでにはそのことを調べて必要な資料も印刷してあげているし、何か食べたいときもまずケイタが作ってあげていた。
捺美ちゃんがそのことを気にすると、
「大学入ってからお返ししてもらうよ。」といつも言う。
ケイタもケイタでバイトもあるし、暇じゃないはずなんだが、こいつはいいやつなんだな。。。
あーぁ、俺もこのくらい勉強できたらなぁ。そしたら、もっと捺美ちゃんにいい思いさせてあげられるのに。
「ふうは、お利口だよねー。」
急に捺美ちゃんが言う。
今日の彼女はサラサラした髪の毛がとてもきれいだ。ただ、整髪料の匂いがジャマだな。俺が猫じゃなかったら、そんなこと気にならないんだが。
「そうそう、最近はちゃんと食べるし。ただでも、ちょっと寝すぎだけどな。普通はこの年齢だともっと遊ぶはずなんだって。」
「なんだか、普通の猫と違うよね?私たちの会話もじいっと聴いてるし。目にすごく何かあるような気がする。」
「そうだよなぁ。ふうがうちに来て、、、3週間くらいか。3カ月経って飼い主が見つからなかったらこのまま俺たちのふうになってもらおうかな。そうしたら、盛大にお祝いしような。」
ケイタの声はほんとうに嬉しそうだった。ケイタ、こいつに俺は好かれているんだろうか?
「そうだね!そうなったら嬉しいなぁ。」
あぁ、ほんとに似合いのカップルで悔しいなぁ、ちくしょう。
ケイタはそんなに美男子ってほどでもないが、俺よりはずっと顔がいいし、捺美ちゃんに対して常にレディファーストだし、こないだだって、捺美ちゃんから夜電話かかってきたときもすぐ飛び出していったんだよな。
あのときは急な豪雨で捺美ちゃんに傘がないからって、持っていってあげてたんだ。捺美ちゃんも家族より先にケイタに連絡するんだな。頼れるもんな。
「捺美さ、この鈴どう思う?」
「これね、なんの素材なんだろ?どうして金属なのに風鈴みたいな音がするのかしら。」
「俺さ、今度工学部のやつに見てもらおうかと思うんだよね。」
こ、この鈴か??
そうだ、俺が猫になっちまったあの日も寝ながらこの鈴の音が遠くから聞こえてきたんだよな!
俺だって知りたいよ。(続)
この小説のテーマ曲です。併せてお楽しみください。
精神的な疲労がひどいのか、それとも猫だからなのか、俺は一人になってしばらくするとまたうたたねをしていた。
あぁ、またあの音が聴こえるなぁ、なんなんだ、これは。。。
気が付くと、ケイタが台所でゴソゴソしていた。
あ、もう帰ってきたのか。
「お、ふう。起きたのか?これ、お前のトイレだよ。」
ト、トイレ。。。床の上に置かれたトイレ。。。当たり前か、人間じゃないもんな。。。
「なーんか悲しそうだなぁ、お前、ほんとに猫かぁ?でも、しばらくはガマンしてくれよ。俺も最大限努力するからさ。」
そっか。。。こいつも別に猫を飼いたかったわけじゃないしな。。。
「わかった、じゃあせめてこうしてやるよ。」
ケイタは押し入れから段ボールを取り出して蓋の半分を切り取り、もう半分を固定した。
「こうすれば見えにくいだろ?」
わかった、ありがとう。俺はそう思った。
「今、飯出してやるから。」
俺が黙って待っていると、皿の上に、数種類のおかずのようなものがきれいに盛り付けられたものを出された。まるで、どこかのおしゃれなカフェのワンプレートメニューのようだ。これはなんだ?見た目はステーキやハンバーグのようだぞ??
ケイタはケイタで、大きな器にやはりステーキとハンバーグを載せてローテーブルの上に置いた。
「よし、これで俺たち男二人の最初の晩餐だ!えーと、ふうの飲み物がないな。」
小さな可愛らしいガラス製の器に水を入れて置いてくれた。
「これ、全部猫が食べても大丈夫だからな?さっき、ペットショップで買ってきたんだ!美味しいといいな。」
ケイタは手に炭酸水が入ったグラスを持った。
「ふうとの出会いに、乾杯!」
ここまでされちゃあ仕方がない。
俺は目の前の食事に手を付けた。もとい、口を付けた。
うん、なかなかうまいぞ。なんだ、これは。マグロを使っているのはわかるが、塩分なしでここまで旨みを出せるものか。こりゃあ勉強になるぞ。
ケイタはケイタで、見た目は俺と同じメニューを食べながら時々俺の様子を見ている。
ケイタはこういうときにアルコールは飲まないのかな?下戸か?
「美味いか?このへんじゃ良さそうなペットショップだし、いろいろ置いてあってその中から人気のメニューを選んできたんだよ。」
へぇ、そうなのか。俺はこのハンバーグに見えるものの中味がシラスっぽいことが驚きだ。
「なーんか、ふうは舌が肥えてそうだなぁ。これは毎日は続かないし、どうしたものかな。」
なんか悪いなぁ。。。そんなふうに思ってたら、ケイタはまた新たな皿を目の前に差し出した。
そこに乗せられていたのは、なんとケーキだった!猫用のケーキがあるのか!
「ふふっ。こういうのも、悪くないだろ。俺は甘いもの苦手だから、これは相伴できないよ。」
ケイタは炭酸水を飲みながら、ちょっと得意げな顔をしていた。
俺は、本気で泣きそうだった。
こんな、情けない姿なのに、なんでこいつはこんなに親切なんだ??ケーキのように見えるこれもやはり魚から作られているようだし、至れり尽くせりすぎるよ。。。
食べ終わって、俺はまた眠くなった。
なんなんだ。
ケイタはケイタでパソコンに向かい、忙しそうだった。
「ふうのベッド、ここだから。」
部屋の片隅に用意された寝床は黒い柔らかそうな生地が敷かれ、傍らに小さな丸っこい小さなクッションとも枕ともいえるものが置かれていた。
これも、俺のために買ってきたのか?気になったけれど、確かめようもない。
俺はケイタの打つキーボードを叩く音を子守唄に寝入っていった。
あの鈴の音は、聞こえなかった。
また日記に書こうと思っていたことを忘れてしまった。
いや、大体いつも内容は決めていないことが多い。だが、パソコンに向かうと自然と内容が思い浮かぶから、それを元に書き始める。
なんだが、
今日はそのついさっきの考えも忘れてしまったのだ。
いいんですよ。そのぶん、今日暗譜したイザイを忘れなければ。
あ、思い出した。
右と左を間違える、という話だ。
そうそう、私は右と左をよく間違える。なぜだかわからない。ちなみに、地図は読めないし東西南北は全くわからない。
今日も、人に車で送ってもらっていたときに
「次のそこを右に曲がって」
と頼む私の腕は左を指している。なんのこっちゃ、という感じである。
なんでなのでしょうねぇ。
よく、右と左を子どもが習うときに「お茶碗を持つほうが右。」というそうだが、お茶碗を持って食べることができるようになる前にヴァイオリンを持った私は、確実に「楽器が左。弓が右。」と覚えこんでいる。
なのですけれども、一旦自分の肉体を離れてしまうと左右が判別できなくなってしまうのだなぁ。これについては、理由も対処法もさっぱりわからない。
このあたりについて、なにか知識がおありの方はぜひご一報ください。
あと、今日は小説『ふうあーゆー』のテーマ曲を公開したので、よろしければ小説と併せてお楽しみください。
写真は、本来の用途で使ったことがあまりないキャンドルスタンド。
そんな、今日でした。
ソロコンサート。ヴァイオリン超絶技巧無伴奏、オリジナル曲、即興演奏など。次回は年内ラスト8月25日エムズカンティーナにて。『青の時代 vol.4』
今日は、自前の小説第4話を公開した。結構読まれているようだが、皆さんどうだろうか。楽しんで頂けていると良いのだが。
で、今日は来週末にせまったソロコンサート『青の時代 vol.4』の準備に取り掛かっていた。最近パガニーニしか弾いていなかったから、いろいろな音楽が新鮮だ。正確にいうと、ずっと熱であまり練習時間も取れないから『パガニーニ・ミーティングス』が終わるまではそれにかかりきりになっている、という状態であった。
体感的には、バッハもコンチェルトも久しぶり。弾いていてすごく気持ちが良かった。
今度は、このシリーズを始めてから眠らせていたイザイをやろう。バッハと関連付けてやりたい。そんな練習をしていて、ソロコンサートで最近弾いているバッハのフーガもひと月ぶりに取り出すと、また感触が違っていて、楽しかった。
きっと、パガニーニに集中して、それから他の作曲家。という巡りがいいんだろうな。やはりヴァイオリニストはパガニーニとバッハのような芸術性の高いものを必ず同時にやるべき、と言われる所以が身をもってわかった気がする。
こうして、また私は音楽とヴァイオリンについて語ることが今宵も増えた。
幸せな、良い日。
そんな、今日でした。
写真は、春過ぎた山の中で。紫陽花だと思うんですが、いかがでしょう。
ソロコンサートシリーズ「青の時代」ヴァイオリン超絶技巧無伴奏、オリジナル曲、即興演奏など。次回は8月25日エムズカンティーナにて。『青の時代 vol.4』
「おぉ、ほんとだ、猫だ。」
俺たちが着いたのは、どうやらあまり広くない感じの造りのマンションの一室だった。
とにかく、今の俺は身体が小さすぎて全貌が掴めないのだ。
でもどうやらここはワンルームとか、そういう間取りだろう、と思った。ケイタ、と呼ばれた男は俺たちより年上のようだ。
ずいぶん捺美ちゃんと親し気だな。従兄か何かか?
「なんか、気になっちゃって。啓太くん、猫飼ってたって言ってたから。それに、うち飼えないし。」
捺美ちゃんは部屋の床に無造作に置かれた大きめのクッションに座りながら膝の上で俺の背中を撫でている。
「そう、前の花子もいいやつだったんだよなぁ。それにしても、こいつの首輪はなんか変わってるな。」
ケイタは、俺の首元の鈴に手を触れた。あれ?この音、なんか聞いたことがあるぞ?
「なんか、変わった音色だよね。風鈴みたい。」
「そうだな、夏でもないのに風鈴を聴いているみたいだ。不思議だよなぁ、金属に見えるのに。」
「じゃ、名前はふうちゃんにしよっか!」
「風鈴のふう?いいな。よし、お前は今からふうだぞ。と言っても、もしかしたら誰かのペットかもしれないし、拾ったところの住所とこいつの写真撮ってSNSに載せるとかしたほうがいいかもしれないな。あ、あと獣医にも連れてかなきゃ。病気とか怪我してないか診てもらわないと。」
「そうだね!さすが圭太くん!」
それは確かにいい考えだ、このケイタって男は信用できそうだ、と思った瞬間、信じられない出来事が俺の頭上で起こった!
「う。。。ん」
なんと、なんとなんとなんと捺美ちゃんがケイタとキスしている!こいつは、俺のライバルだったのか!というか、俺、どうしようもなく負けちゃってるじゃないか!!どうしたらいいんだ!!
思わず膝の上で頭を抱え込もうとバタバタしてしまい、二人はそれ以上の行為を続けることをやめた。
「なんか、人間味あるなぁ、こいつは。」
俺は、あっさりとケイタに抱きかかえられる。
あぁ~、嫌だ、嫌だよ、離せよちくしょう!暴れても一向に自由にならない。
捺美ちゃんがふふっとあの可愛らしい笑顔で笑いかけた。
「ふーちゃん、ケイタくんはペットにも優しいし、ここでならまた会えるから、ワガママしないでいい子にしててね。」
捺美ちゃんに言われちゃあしょうがない。。。俺はあきらめるしかなかった。
「じゃあ、私は塾に行くから。獣医さんとか、お金かかるよね?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。そのくらいはバイトで稼いでるから。万一かなりかかりそうだったら友達に相談するよ。獣医学部に行ってる人、知り合いにいるからさ。」
「さっすが名門!私も目指してがんばろーっと!」
「捺美の成績なら大丈夫だよ。」
「うん、あとでまたラインするね。」
捺美ちゃんは出ていき、俺はケイタと二人きりとなった。
「さて、と。まずお前の写真撮らなきゃなー。この鈴と首輪もよく写るようにしなくっちゃな。黒猫なのはみりゃわかるだろ。」
ケイタはクッションに俺を座らせてスマホで何枚も撮影した。
さっきまでの捺美ちゃんのいい匂いがぷんぷん漂ってくる。
俺は感覚も猫になってしまったらしい。捺美ちゃんのいい匂いを感じられることは嬉しいんだが、でも、嬉しくない。
そこからケイタは知り合いに電話し始めた。
「はい。。。はい。うん、見た目はそんな小さくないのと、元気そうなんですよね。じゃあ、予防接種と、去勢手術くらいですかね?。。。あ、そっかぁ。飼い主がいる場合がありますね。。。わかりました。ありがとうございます。」
きょ、去勢手術ぅ!!?そんなことされて俺、人間に戻ったとき大丈夫なのか!!??
俺のドギマギが伝わったのか、電話を切ったケイタは人懐っこい笑顔で俺に話しかけた。
「なーんだ、お前も男だから気にしてんのかぁ?大丈夫だよ。とりあえず飼い主さんを見つけるまでは手術はしないさ。首輪してる猫は飼われている可能性が高いらしいからな。3か月はそのまんまだ。」
さ、三ヶ月。。。三ヶ月経ってもこのままだったら、俺、去勢されちゃうってこと!!?まだ、まだなんにもしてないのにぃぃ!!!
「だーいじょぶだって!それより、予防接種は行くぞ。このへんの大きな動物病院調べなきゃな。そこでお前の元の飼い主さんが見つかるかもしれないし。あ、なんか食いたいよな?とりあえず。。。牛乳しかないな。それでいっか?あとで買い物行ってくるから。」
「?」
そこに映っていたのは、猫だった。
「??」
びっくりして鏡を触ろうとしたら、鏡の猫も同じ動作をする。
へ?これ、俺?
改めて自分の身体を見渡すと、確かに毛で覆われている。
足の裏には肉球もある。
なにかしゃべろうとしてみた。口から出たのは「みゃあーん。」
え、ちょっと待って、俺ほんとに猫になっちゃったの!慌てて世界を確かめようと玄関から表に飛び出た。ちくしょう、なんでいちいち跳び上がってドアを開けなくちゃいけないんだ、なんなんだ、これは!
表に出て辺りを見回すと確かにそこはうちの近所のままだった。
普段と何も変わらない。そう、大きさ以外は。
いてもたってもいられなくて、そこら近所を走り回った。
なんだ、なんなんだ、何が起こったんだ!気が付いたらうちから人間だったら徒歩20分弱くらいの距離のところまで来ていた。何も状況は良くならないどころか、ただ無駄に疲れただけだ。なんてことだ。。。
精神も肉体も疲労困憊して、俺は電柱にもたれかかった。
世間は普通なのに、なんで俺だけこんなことになっちまったんだよ。。。はぁ。。。
とため息を漏らすも、それも「みぃ。。。。」と出てきやがる。泣こうにも涙は出てこないし、あぁ、俺は本当に猫になったのかよ。。。
「どうしたの?」ふと、聞き慣れた声に顔を上げた。
そこには捺美ちゃんがいた。今の俺からみたらビッグサイズの捺美ちゃん、そう、捺美ちゃんだ!びっくりして声に出たのは「みゃおーん!」な、情けない!
「なんか、気になるなぁ。捨てられたの?」
捺美ちゃん。君はこの姿の俺にも優しい声をかけてくれるんだね。。。私服も可愛いと思うんだけど、大きすぎて今の俺にはあまり全貌が見えないのが残念だ。。。
「うーん。。。なんか誰かに目が似ているような気がするんだけど。。。」
俺はただただ情けなくて、目を伏せていた。口から洩れる声は猫の鳴き声だった。
捺美ちゃんが手を伸ばして喉の下を撫でてくる。あぁ、捺美ちゃんの手、指、気持ちいいよ。。。
「。。。」
捺美ちゃんは、黙ってしばらくただ俺を撫でていた。
ふいに、俺のわきの下から手をくぐらせた。
俺は好きな子に抱っこされてしまった!
「うん、いい子だね。」
頬ずりされてしまうと、
そうでもなくてもいい匂いの捺美ちゃんなのに、更に更に甘い匂いでいっぱいになって俺はクラクラしてしまいそうだった。
一旦また降ろされたと思ったら、捺美ちゃんは大きめのリュックからスマホを取り出した。
「あ、もしもし啓太くん?今さ、塾の前に寄っていい?猫拾ったの。」
え、俺拾われちゃったの?ていうか、ケイタって誰?親父心配するよなぁ、でもこの姿を見せたらもっと心配するよなぁ。
これは捺美ちゃんに未来を託したほうがいいのかもしれないな。
俺はそう思って、おとなしく再び捺美ちゃんの腕に身を任せることにした。
ふと目覚めたら、俺は椅子の上で丸くなっていた。
「うーん。。。ずいぶん寝ちゃった気がするなぁ。。。」
と伸びようとしたら、なんか、変だ。
なんで、俺は椅子から降りられないんだ?
というか、世界が全て大きくなってしまっているぞ?
あれあれ?テーブルに手が届かない。床も、飛び降りないと降りられない。なんだこれは?
オーブンの様子も見えないけど、やたらいい匂いがするな。普段、こんなに強烈な匂いじゃなかったけれど、今日のレシピだとそうなっちゃうのか?そんなはずはないんだが。
よくわからないから、とりあえず椅子から飛び降りてみた。
すとん、と降りられた。
「?」
なんだ、この感覚は?
降りて少し歩いてみても、世界が大きいことに変わりはない。
おかしいなぁ。俺はまだ夢を見ているのか?
オーブンの様子も気になったけど、ずいぶん高いところにあるからそこまでどうやって行けばいいのかわからない。
困ったなぁ、と思いながら尿意を催した俺はトイレに行くことにした。
トイレに入るにも、ドアノブに手が届かない。勢いつけてジャンプ、ドアノブを両腕で掴みぶら下がったところでグイっと壁を蹴っ飛ばした。
そしてまたすとん、と降りたはいいが、便器が大きすぎて困ってしまった。
仕方なく便座にしがみつきながらなんとか用を足し、手を洗うのもまた先ほどまでと同様に洗面台に跳び上がって。。。とやっていたところで、ふと鏡に映ったものを見た。