「?」
そこに映っていたのは、猫だった。
「??」
びっくりして鏡を触ろうとしたら、鏡の猫も同じ動作をする。
へ?これ、俺?
改めて自分の身体を見渡すと、確かに毛で覆われている。
足の裏には肉球もある。
なにかしゃべろうとしてみた。口から出たのは「みゃあーん。」
え、ちょっと待って、俺ほんとに猫になっちゃったの!慌てて世界を確かめようと玄関から表に飛び出た。ちくしょう、なんでいちいち跳び上がってドアを開けなくちゃいけないんだ、なんなんだ、これは!
表に出て辺りを見回すと確かにそこはうちの近所のままだった。
普段と何も変わらない。そう、大きさ以外は。
いてもたってもいられなくて、そこら近所を走り回った。
なんだ、なんなんだ、何が起こったんだ!気が付いたらうちから人間だったら徒歩20分弱くらいの距離のところまで来ていた。何も状況は良くならないどころか、ただ無駄に疲れただけだ。なんてことだ。。。
精神も肉体も疲労困憊して、俺は電柱にもたれかかった。
世間は普通なのに、なんで俺だけこんなことになっちまったんだよ。。。はぁ。。。
とため息を漏らすも、それも「みぃ。。。。」と出てきやがる。泣こうにも涙は出てこないし、あぁ、俺は本当に猫になったのかよ。。。
「どうしたの?」ふと、聞き慣れた声に顔を上げた。
そこには捺美ちゃんがいた。今の俺からみたらビッグサイズの捺美ちゃん、そう、捺美ちゃんだ!びっくりして声に出たのは「みゃおーん!」な、情けない!
「なんか、気になるなぁ。捨てられたの?」
捺美ちゃん。君はこの姿の俺にも優しい声をかけてくれるんだね。。。私服も可愛いと思うんだけど、大きすぎて今の俺にはあまり全貌が見えないのが残念だ。。。
「うーん。。。なんか誰かに目が似ているような気がするんだけど。。。」
俺はただただ情けなくて、目を伏せていた。口から洩れる声は猫の鳴き声だった。
捺美ちゃんが手を伸ばして喉の下を撫でてくる。あぁ、捺美ちゃんの手、指、気持ちいいよ。。。
「。。。」
捺美ちゃんは、黙ってしばらくただ俺を撫でていた。
ふいに、俺のわきの下から手をくぐらせた。
俺は好きな子に抱っこされてしまった!
「うん、いい子だね。」
頬ずりされてしまうと、
そうでもなくてもいい匂いの捺美ちゃんなのに、更に更に甘い匂いでいっぱいになって俺はクラクラしてしまいそうだった。
一旦また降ろされたと思ったら、捺美ちゃんは大きめのリュックからスマホを取り出した。
「あ、もしもし啓太くん?今さ、塾の前に寄っていい?猫拾ったの。」
え、俺拾われちゃったの?ていうか、ケイタって誰?親父心配するよなぁ、でもこの姿を見せたらもっと心配するよなぁ。
これは捺美ちゃんに未来を託したほうがいいのかもしれないな。
俺はそう思って、おとなしく再び捺美ちゃんの腕に身を任せることにした。