精神的な疲労がひどいのか、それとも猫だからなのか、俺は一人になってしばらくするとまたうたたねをしていた。
あぁ、またあの音が聴こえるなぁ、なんなんだ、これは。。。
気が付くと、ケイタが台所でゴソゴソしていた。
あ、もう帰ってきたのか。
「お、ふう。起きたのか?これ、お前のトイレだよ。」
ト、トイレ。。。床の上に置かれたトイレ。。。当たり前か、人間じゃないもんな。。。
「なーんか悲しそうだなぁ、お前、ほんとに猫かぁ?でも、しばらくはガマンしてくれよ。俺も最大限努力するからさ。」
そっか。。。こいつも別に猫を飼いたかったわけじゃないしな。。。
「わかった、じゃあせめてこうしてやるよ。」
ケイタは押し入れから段ボールを取り出して蓋の半分を切り取り、もう半分を固定した。
「こうすれば見えにくいだろ?」
わかった、ありがとう。俺はそう思った。
「今、飯出してやるから。」
俺が黙って待っていると、皿の上に、数種類のおかずのようなものがきれいに盛り付けられたものを出された。まるで、どこかのおしゃれなカフェのワンプレートメニューのようだ。これはなんだ?見た目はステーキやハンバーグのようだぞ??
ケイタはケイタで、大きな器にやはりステーキとハンバーグを載せてローテーブルの上に置いた。
「よし、これで俺たち男二人の最初の晩餐だ!えーと、ふうの飲み物がないな。」
小さな可愛らしいガラス製の器に水を入れて置いてくれた。
「これ、全部猫が食べても大丈夫だからな?さっき、ペットショップで買ってきたんだ!美味しいといいな。」
ケイタは手に炭酸水が入ったグラスを持った。
「ふうとの出会いに、乾杯!」
ここまでされちゃあ仕方がない。
俺は目の前の食事に手を付けた。もとい、口を付けた。
うん、なかなかうまいぞ。なんだ、これは。マグロを使っているのはわかるが、塩分なしでここまで旨みを出せるものか。こりゃあ勉強になるぞ。
ケイタはケイタで、見た目は俺と同じメニューを食べながら時々俺の様子を見ている。
ケイタはこういうときにアルコールは飲まないのかな?下戸か?
「美味いか?このへんじゃ良さそうなペットショップだし、いろいろ置いてあってその中から人気のメニューを選んできたんだよ。」
へぇ、そうなのか。俺はこのハンバーグに見えるものの中味がシラスっぽいことが驚きだ。
「なーんか、ふうは舌が肥えてそうだなぁ。これは毎日は続かないし、どうしたものかな。」
なんか悪いなぁ。。。そんなふうに思ってたら、ケイタはまた新たな皿を目の前に差し出した。
そこに乗せられていたのは、なんとケーキだった!猫用のケーキがあるのか!
「ふふっ。こういうのも、悪くないだろ。俺は甘いもの苦手だから、これは相伴できないよ。」
ケイタは炭酸水を飲みながら、ちょっと得意げな顔をしていた。
俺は、本気で泣きそうだった。
こんな、情けない姿なのに、なんでこいつはこんなに親切なんだ??ケーキのように見えるこれもやはり魚から作られているようだし、至れり尽くせりすぎるよ。。。
食べ終わって、俺はまた眠くなった。
なんなんだ。
ケイタはケイタでパソコンに向かい、忙しそうだった。
「ふうのベッド、ここだから。」
部屋の片隅に用意された寝床は黒い柔らかそうな生地が敷かれ、傍らに小さな丸っこい小さなクッションとも枕ともいえるものが置かれていた。
これも、俺のために買ってきたのか?気になったけれど、確かめようもない。
俺はケイタの打つキーボードを叩く音を子守唄に寝入っていった。
あの鈴の音は、聞こえなかった。