ケイタの様子が少しずつ変わってきたのはその一か月ほどあとだった。
パソコンに向かう時間が長くなり、電話もよくする。
そして一日中ブツブツ英文を口にしている。
相変わらず俺の世話は丁寧にやってくれるし、それは俺もありがたいのだが、見ていると、
俺はいつまでもここにいるべきではないのでは。そう思った。
「え、見てもらえるんですか?ありがとうございます!」
ケイタは電話を切ると、最低限の俺の衣食住を整えて部屋を飛び出していった。
帰宅したのは深夜になってからだった。
「ふう。。。俺、お前たちに、、、。」
疲れた顔のケイタは何かを話そうとして、でも途中でやめてしまった。お前たちって、捺美ちゃんと俺のことか?
「捺美に返信しないとな。この汚い部屋に入れる自信がないよ。」
最近の忙しさでケイタは部屋の掃除はおろか、洗濯も洗い物も溜まりがちだった。
捺美ちゃんが来る数時間前に慌てて表面だけ片づける、俺はそれをよく知っていた。
仕方ない、ケイタはそれだけ勉強も忙しいのだから。
「あぁ~。。。困ったなぁ。。。このままじゃあダメだ。。。」
そんな弱音を吐くのは、俺が来てからは初めてだった。
なんでだ?お前はすごくがんばっているじゃないか。
勉強があるからって、酒もほとんど飲まない。
それに俺の世話は焼きすぎるほど、焼いてくれる。
「でも、確実な就職を勝ち取るには、やんないと。」
俺を抱き寄せながら語る低い声は、信じられないほど男らしかった。(第10話終わり)
小説『ふうあーゆー』テーマ曲~時空の音色~ 作曲・演奏 田中幾子