何も変わっちゃいなかった
これを書いている1月9日。この週末に急に出番が決まった演奏会があるのだが、その決まった日というのが、先日の6日の夜のことでした。
最近弾いている演目の他、試してみたい曲を入れ、それとは別に来月以降に取り入れたい曲、やるのはずっと先だが早めに仕上げたい曲などなど、それらを今のスケジュールで練習していくことを話し合っていたら、つい叫んでしまっていた。
「こんなに頑張ったら死んじゃうよ!」
あ、と思った。
遠い昔、同じようなことを叫んだ記憶がまざまざと甦った。
確か、小学生の頃。夏休みだった。一日に8時間くらい練習しなさい、と言われて私は叫んだのだった。
「そんなに練習したら、私死んじゃうよ!」
そしたら、姉と母は大笑い!「死んでごらん、新聞に載るから!」
えー、なんなのそれ。意味がわからない。
私より8つも年上の姉は母と同じ大人の考えの持ち主だったから、余計私はぶすっとしたのだった。
あ、今あのときと同じこと言ってる。
あの時と若干セリフは違うし、あの時は8時間さらわなかった。
それになんといっても、ヴァイオリンの練習のしすぎでいたいけな少女が死に至ることがあれば、それは例えばパガニーニには悪魔が憑りついているから埋葬の許可が降りないとかいう逸話に匹敵するくらい、クラシック史上を賑わせられる世にも珍しい出来事として語り継がれるであろうことはいくら私が天然ボケの名人であったとしてもわかっている。
その時私が気が付いたのは、
あ、私って変わらないんだ。ということ。
物心ついたときから好きな曲は変わらない。
あの頃レッスンで習った曲、どんなふうに弾きたいとか。その当時に叶わなかった理想のイメージをなんとか叶えようと弾いているけど、いつになったらできるのかなぁ。
そうなんだよなぁ。生まれてこのかた、好きなものが変わったことがない。
好きな色に好きなスタイル。飽きそうなものは、最初から手を出さない。
そんなふうにして、自分を知ることができるから、音楽はいい。ヴァイオリンはいい。幼いときから続けるものだからね。
ちなみに、本件に出てくるくだんの名セリフ。数年前に、ヴァイオリンを習っているよく弾ける少女と話したときに、彼女は間違いなく同じことを口走った。なるほど。これは、ヴァイオリン少女にとっては避けては通れないことなのかしれない。
なにしろ弾いている間は、いつまでたっても少女の頃と変わりないからね。
ちなみに写真は、最近聴いているレオニード・コーガンのメンデルスゾーン。これのラロがまたいいんだ。こんなことしていると時を忘れちゃう。はい、おしまい。