Notes

『決』 20200227

いやもう、大変ですよ。

私がわざわざ申し上げることでもないけれど。既に皆さま大変な状況にいらっしゃることと存じます。早く安心したいですね。

 

私は私で予定していた3/12『幻楽夜話』は中止としたし、とても残念でおります。

 

で、決めたことがある。

 

まるまる一か月近く予定が空いたから、この期間に作って作って作る、ということ。

 

先週、公演の中止を決めてから、もろもろの対応を行い、ふと気が付いたらたくさんのものが手から生まれようとしていた。ピアノに向かうといくらでも出てきそうだった。初めての体験だった。

そっか、弾くものがたくさんあるときには出てこないんだな。

そう思った。

 

今の活動を始めてからおよそ一年、作曲や執筆もなんとか手掛けていたけれど、ヴァイオリン一本とか路上とかパガニーニとかやっていると心身ともにそっちで忙しくてなかなか創作までは向かえない。この数日、それが一気に解き放たれた感じがした。だから、これから表に出られない期間はすぐに創作に向かう、そういう切り替えができるようになる自分でいたい。

というわけで、創作作品は、仕上がり次第お目にかけたいなと思っておりますので、ぜひご期待くださいませ!その他にもいろいろと準備中だがね!4/18ソロコンサート『我儘なソリスタ』はぜひお越しください!

 

写真は、こんな大事になってしまうしばらく前の生中と私。

そんな、今日でした。

 

『馬』 20200213

馬と言えば、擦弦楽器の弓の毛は馬のしっぽで出来ている。

天然のを、漂白してあるんです。あまりにぼろぼろなのは取り除いて。これを弦にこすりつけて弾くんだから、弾いているうちに摩耗してくる。それをたまに交換するのを毛替えと言います。

あと、ラヴェルのツィガーヌという曲があるが(ツィゴイネルワイゼンと同じくジプシー調の超絶ヴァイオリン曲で実はツィゴイネルワイゼンを遥かにしのぐ難しさ)これの冒頭なんか、私のイメージは「馬みたいに弾く」だ。馬が鳴くときのあの勇ましさ、そして野生。そんな感じがする。

 

てなわけで

 

今朝ははるばる、横浜馬車道まで出かけて参りました。

これについては、のちのちおもろいものを発表する準備に邁進しておるので、今しばらくお待ち頂きたいのだが、

 

同行メンバーは、津原泰水。そしてピアノ藤井麻理。

 

先生と麻理ちゃんと3人で朝っぱらから楽しいコトやってきたぜ!!

 

コトが済んだあとは、3人で気持ちがいいお喋り。先生の話題の豊富なこと!普通じゃないね。さすが次々と引き込まれる作品を出されるはずだ。それにしても、先生の語り口は愉しい。柔らかい声に、優しい眼差し。まるでずっと浸かっていたい変ロ長調のフラット2つの幸せ。

 

写真は、コト済んだあとの間抜けな私の背中と佇む先生。撮影は麻理ちゃんさ。

そんな、今日でした。

 

私以外は2人とも先生。文学と音楽が出会うコンサート『幻楽夜話』~超絶ヴァイオリンが再現する名作文学に流れる調べ~

『朝』 20200203

3/12『幻楽夜話』のためのリハーサルが数日後に決まった。

今回は、ヴァイオリンとピアノのために書かれた曲ではない、オーケストラ作品なども演奏するため、リハーサル前の打ち合わせが必要で、それ自体音を出しながらやる、というものだ。

そして、私はあることに震撼している。

 

それは、そのリハーサルが

 

早朝に行われる、ということ。なんてことなの。

 

ここで言う早朝とは、極めて個人に由来する体感的な尺度による表現であって、一般的には決して早朝ではない。だって、朝9時からだもん。でも、だって、そうしたら私、7時半くらいに電車乗ってかないといけない。

なぜならば、午前中という時間帯に混んだ急行電車で立っていると貧血で倒れてしまうという習性の持ち主なのだ、倒れちゃうと回復までおよそ2時間はかかる。これは今までの都会生活で唯一学んだ護身術でもあって、私はいくつもの駅で駅員さんの仮眠室にお世話になってきた。だから早めに出て各駅停車の電車に乗らなければいけない。

 

今日、お昼ご飯を作りながらこのことに思いを馳せ、ふと思い出した。

私、そういや高校時代はゼロ限のために6時起きで学校行ってたじゃない!(ゼロ限とは、1時間目の前に行われる授業であって、7時40分からスタートする。)だから、その気になったら6時台にだって起きられるじゃん!

即、別の声が聴こえる。

馬鹿かお前は!!その分、学校に着いてからしこたま授業中に寝ていただろうが!!お前はリハーサル中に寝るつもりか!!この馬鹿たれが!!学校には毎日5~10分遅刻していただろうが!!己のだらしなさを葬ったつもりでいるのか!!

 

そうだ、私ゼロ限に定時に行ったことなんてたぶん3回くらいしかないし、着いたら寝ちゃうし、それで立たされて、立ったままでも寝ちゃって辛かったんだ。立って寝るって、辛いんですよ皆さん、やらないほうがいいよ。

 

そして、くだんの懸念へと戻る。こうして、アイティの悩みはループする。

写真は、練習のお供のバランスボールで怯える私。

そんな、今日でした。

『左』 20200202

3/12『幻楽夜話』の準備をしている。

内田百閒が書いた『サラサーテの盤』には、サラサーテの自演レコードのツィゴイネルワイゼンの演奏が登場するのだが、

まぁ、このサラサーテという人の音楽には、しばしば左手ピチカートというものが出てくる。

 

で、この左手ピチカート。

 

正直、苦手なんだよね。

 

指の力が強くないので、弦を押さえたままはじく、というのがなかなか要領が得られにくい。特に、こういうところは曲のスピードも速いですしね。

 

で、私が開発したやり方は

 

①直前に弾く音の左指を押さえる力は極力弱く、音の響きは右手の運動でだけ出し、且つ、右手は強めに弓を押さえる。

②3、4の指と同時に押さえていた1の指も弦から離す。(こうすることで左手の力をできるだけ楽に使えるようにする。)

③ピチカートが終わった瞬間に左指はしっかり次の音を押さえる。

 

こうすると、私なんかでもサラサーテの左手ピチカートが形になってくる。

 

ね?音楽は解説で読んだってよくわからないでしょ?というわけで、実演をばご覧あそばせ。ご予約はこちらでございます。3/12『幻楽夜話』

 

そんな、今日でした。写真は、そのピチカートの指。

『浸』 20200121

最近は忙しくてほとんどやっていないが、昔から弾けない曲のスコアを音源聴きながら分析したり、弾けもしないピアノ曲をさわることが好きだ。

オケの譜面とか。カルテットとか。

ブラームスのカルテットなんてスコア見ているとその緻密さと研ぎ澄まされた緊張感からのゆったりとした音楽の造り込まれた構成に、とても同じ人間の技だとは思えない、と感じる。

モーツァルトは、ピアノ協奏曲なんか案外楽しいのですよ。この人のピアノ協奏曲は、彼における一つのジャンルと化しているので、オケとピアノの具合が素晴らしくバランスが整っていない。単純なソロと伴奏じゃあないからね。そこから生まれる妙というのがこの上なく美しい。

 

そんなふうにしていると時間はあっという間。

 

ただ、でもこうして弾けない曲にふれて、弾けるものは少しでも弾いてみて、そうすると何がしか自分の中にいろんな栄養素が入ってくるかのようで、それはときに疲れる。私はしょっちゅう湯あたりしている。食べてもないのに、いろんな人の成分が入ってくるのだものな。

 

読書もそうだな、少しでも手に取って読もうとしているうちに知らずのうちに私の中には文学が入ってくる、きっと。さしずめ、毎日種類の違う温泉に浸かっているかのようだ、この人生。

 

写真は、習慣にしている里山歩きで見かけた山茶花の瑞々しさに心奪われて。

そんな、今日でした。

『雪』 20200119

昨日は、神田ヴァイオリン娘活動で知り合った方に連れられて、神田の深部に入ってきた。

神田の老舗インドカレー店「葡萄舎」だ。ぶどうしゃ、と書いてぶどうやと読む。

 

そう、カレー屋だ。

 

年季の入った店内の様子。使い込まれた古い木製のカウンターに木のテーブル。壁が薄汚れているのは、煙草のせいか。

間違いなく、一人では入れない店だ。

 

オールバックの髪の毛を後ろで一括りにしたオーナーは、1960年代にヨーロッパからインドを5年間も旅したらしい。音楽を愛し、古い時代のスピーカーから流れる音は店の木と反射し柔らかい。店の雰囲気もその音のようだ。

だって、葡萄舎なんて店の名前なのに、

メインはインドカレーだし、

夜のメニューといえば、しめ鯖、煮凝り、さつま揚げ。

 

もちろん、カレーもあるしベジタリアンも食べにくるという仕上がりは、びっくりするくらい美味しかった(私には)。

 

あと、どれもこれも大盛りたっぷり。

 

古い時代のお話しをうかがったり、神田の様子を教えてもらったり。どれもこれも許される懐の深い音と店。

神田ヴァイオリン娘も少し神田のエキスが入ってきたかも。

 

ここでライブやるときは、お知らせします。

そんな、雪の夜でした。

終演『Paganini Meetings.4』

2020年1月13日。まだ「明けましておめでとうございます」と言いたい気分の今日、我らがオールパガニーニプログラム『Paganini Meetings 4』無事終演しました。お越しのお客様方、ありがとうございました。

 

今回の曲目。順番に

 

ソナタ・コンチェルタータ

カプリス24番(Vn)

ナポレオン

ソナタ3番、27番(Gt)

43の気まぐれより8番(Gt)

バルカバ変奏曲よりムタ3番

チェントーネソナタ4番

 

このうち、かっこで楽器名を記載しているものはそれぞれのソロ。

 

いやぁ、今回のプログラムはきつかった。ナポレオンという曲が、ヴァイオリンのG線一本で弾くために書かれているのですが、それが恐ろしく難しくて。パガニーニのG線だけの曲というと「モーゼ幻想曲」というのが有名なのですが、そっちのほうがずっと簡単に思えた。凄まじく高いハーモニクスがバンバン出てくるんだもの。こんなハーモニクスが存在していただなんて。そんな知らなかったことまで出てくる曲。これは身体にこたえる。

それと以前から取り組んでいるバルカバ変奏曲というのは、超名曲カプリス24番と同じ時期に書かれた、ヴァイオリンとギターの2重奏曲でこれもカプリスのような超絶技巧バンバン。特に今回の3番は難しかった~。

そう、今回は私と富川せんせの間で、とても音楽的とは言えないセリフが飛び交っていた。例えば難しいからって「愚痴は言わない」とか。

 

あとは、

「そこのリズムどうなってるの。え、そんな……不愉快極まりない」

 

不愉快極まりない。

 

音楽に対して出てくるセリフとは思えないね。私の「身体にこたえる」もそうだけど。

 

そのくらい、奇妙で変てこりんで、他の曲ではやらなかったアイディアを詰め込んでいるんだよなぁ。

 

そう、思うとパガニーニも可愛いやつかも。

 

しかし、それにしても今回のこれで、私の左顎下にヴァイオリニスト特有の痣ができたのは明確な事実ですわよ。痣、なかったんだけどな。

 

ちなみに、次回は5月17日のお昼です。だいぶパガニーニを掴んできた我ら。そろそろ決めの演奏をお目見えしましょう。

 

写真は、終演後にとにかくケーキで糖分補給したい私。向かいにはせんせがいた。

20200312 『幻楽夜話』

お知らせ

3/12に開催予定しておりました下記のコンサート『幻楽夜話』は、新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため中止と致します。

つきましては、チケットご購入のお客様にはパスマーケットを通して順次払い戻しを対応させて頂きます。お問い合わせはメールもしくはツイッター@it_violinまでDMでご連絡くださいませ。
本公演を楽しみにして頂いた皆様には大変申し訳ございません。
ご理解ご協力のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

また、田中幾子、藤井麻理、津原泰水3名の今後の活動をご期待くださいませ。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 


 

ーしかし、私はあなたがたに言う。だれでも、情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである。(マタイによる福音書第5章28)ー

私の持つ『クロイツェル・ソナタ』の冒頭にある文章。物語は早春の汽車の中で始まります。

そう、これはベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』のことではない。トルストイの『クロイツェル・ソナタ』のことであって、物語はベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』の音楽と絡み合うように進んでいく、その様子はあの激昂した1楽章、ヴァイオリンとピアノが恐ろしいほど複雑に蛇のようになっているさまを彷彿とさせるようで、このストーリーは、ベートーヴェンの音楽を抜きには語れない。

続きを読む

『二』 2020.0109

去年から始めたオールパガニーニコンサート『パガニーニ・ミーティングス』も今度で4回目だ。こらえは、元々はギターの富川せんせと何かコンサートやろうと話していたときに、

「最近は、一人の作曲家に絞ってやるものが興味持たれやすいよ」

「え、じゃあパガニーニ?曲やまほどあるしね」

みたいなノリで始めたのだ。それまでは、ピアソラとかサラサーテのスペイン民謡とかギターの古典やってた。だから、正直そこまでパガニーニに愛着があるとか、憧れていたとか、そういう気持ちは私はあまりなかった。ヴァイオリニスト的には、ちゃんと弾けて当たり前の作曲家なんだけどさ、好きとか嫌いとかで言っちゃうとやっぱベートーヴェンは死ぬほど凄いと思うし、ラヴェルなんか永遠の憧れ、砂浜の白ワンピが似合う清楚なお姉さんのような見た事のない憧れ感だよな。

 

が、おかげさまでシリーズとしてひたすらやっていくと、

 

はーっ、やっぱ名人ってすごいわ。

 

とひれ伏したい気分となるね、さすがだわ。歴史に残る人ってすごい。やっぱすごい。どう考えてもすごい。ヴァイオリンってこんなこともできたの、ってたくさん思う。はぅあ~すごいわ。

とか思いながらの今日のリハ。思い起こしてみれば、富川せんせと出会ったのって2年前の今頃か。目黒のバーValseだった。あれから結構な本番やってきたな。去年も一番共演回数が多かったし、人生どこでどう出会えるかわかんないもんだな。

 

写真は、富川せんせとこにあったおもちゃの三味線。これ弾いてもらってげらげら笑ってた私。

そんな、今日でした。

『親』 2020.0105

年末年始は、母と過ごしてきた。

佐賀出身ということを公言している私ですが、実は我が家のルーツは東京から東北、北海道のほうにあり、佐賀というところには父の赴任でお世話になったにすぎない。

その父も亡くなり、親類縁者もいないところにいつまでも母一人でいるのも良くない、と思い、この数年母の東京移住の準備を進めており、この年末にようやく実現となった。

 

何しろ、大学時代に渋谷に住んで以来、東京好きな母である。まだ越してきたばかりで生活は落ち着いていないが、街や人の様子に大変興味関心を抱いており、これからしばらくスマホ片手に自分の街をうろうろ探検しまわることと思う。幸い、ご近所の方々もとても人の好い様子で、それも良かった。スマホの使い方はいくらか教えてきた。

彼女は、一人であれこれ出かけることも大好きで、

佐賀にいたころは、信心深さから佐賀市内から熊本の阿蘇神社まで何度もお参りに出かけていた。片道3時間はかかる距離を車で行くのだ。このたびも、車で上京したいと度々主張していたのだが、東京での運転経験が皆無なため、姉夫婦が止めた。諦めて飛行機で上京、引っ越しに伴い佐賀から車も届いたので、この先喜んで乗り回すことと思う。

 

北海道稚内から東京に大学進学、夫の赴任で身寄りもいない佐賀で半生を過ごし、合間に国の派遣でボストンへ。私が知っている彼女の人生は、半分ほどであるがそういったことを持ち前の室内犬のような冒険好きな性格で前向きに乗り越えてきている。

 

私が、いろいろなことに挑戦できるのは、この血をひいているからだな。あの人、永遠の少女だからな。

 

二人で、冷蔵庫も洗濯機も届いていない新居で彼女お手製のお正月料理を味わい尽くし、「私コンサートでミニスカート履くから衣装縫って」と我儘娘ぶりを発揮、互いの文学話に興じ、クラシック音楽やヴァイオリンにはほとんど興味を示さないが娘の練習だけは邪魔しないため深夜までヴァイオリンもピアノも弾き放題。「何その脚、太いわね~」と言い放つモデル体型の母。私は彼女と外観が全く似ていない。それは驚くほどである。

 

そんな、お正月でした。

オールパガニーニシリーズ 2020年1月13日『Paganini・Meetings4』